マイクロフロー合成とは

 有機合成化学の分野では中世の錬金術師の時代から今日に至るまでフラスコのような容器に溶液をためて、混ぜて反応させる手法が用いられてきました。数百年もの間、実験器具が本質的に変化していない分野は珍しいといわれています。
 では、フラスコ内で磁気撹拌子を用いて二種類の溶液を混合するために要する最短時間はどの位でしょうか?溶液の粘性等さまざまなファクターに影響をうけるものの、「最短でも数秒」を要するとされています。化学反応を行う際には反応の開始時、終了時に通常最低でも二回溶液を混合せねばなりませんので、フラスコを用いて、おおよそ60秒以内の反応時間を精密に制御することは理論的に困難です。つまり研究者がちょうど60秒間隔で溶液を加えたとしても実際には数秒程度以上、反応時間の長短が生じてしまいます。
 マイクロフロー合成とは、1990年代後半に生まれた、おおよそ内径1 mm以下の流路内に溶液を流しながら行う合成手法です。最大の特長の一つは手軽に「数ミリ秒以内に溶液を混合」できる点です。一例として、下図のT字型ミキサーに赤と青の矢印の向きに、ニつの溶液をある一定以上の速度で流し入れると、水色の出口から数ミリ秒以内で混合が完了した溶液が得られます。

有機合成反応の中には、60秒以内に反応を終わらせないと、過剰な反応を起こして収率が低下してしまうといったものが数多くありますが、これまでこれらの反応は「制御が困難な反応」としてその価値を十分に認識されてこなかった側面があります。私達は有機合成化学の分野につい最近現れた、マイクロフロー合成法という道具を駆使して、この見過ごされてきた化学種の価値を「発掘」することを目的として研究を行っています。