リン酸エステルの合成

リン酸トリエステルの合成
 リン酸トリエステルは医薬品やその候補化合物、殺虫剤、難燃剤、可塑剤など多様な用途で利用されています。現在、ほとんどの有機リン化合物は安価で入手容易な三塩化リンを原料として合成されていますが、三塩化リンの反応性が高すぎるて過剰なアルコール導入が起こりやすいため、3つの異なるアルコールを連続的に順次導入してリン酸トリエステルを合成することは困難でした。しかも興味深いことに1つ目のアルコールの導入時よりも2つ目のアルコールの導入時のほうが、過剰反応が起こりやすく、その理由は明らかにされていませんでした。さらにイミダゾールを添加すると過剰反応抑止に効果があることも報告されていましたが、その理由も不明のままでした。私達はマイクロフロー合成法を駆使して、三塩化リンに対して3つの異なるアルコールを高収率で連続的に導入することに成功しました。また、金沢大学のグループとの共同研究でDFT計算により、2つ目のアルコール導入時に過剰反応が起こりやすい理由とイミダゾール添加により、これが抑止できる理由について仮説を提唱しました。本成果は金沢大学、東京工業大学のグループとの共同研究で得られたものです。
Chem. Eur. J. 28, (37), e202200932, (2022).

H―ホスホナートのアシル化反応
 H―ホスホナートは様々な有用有機リン化合物の合成中間体として利用されていますが、アシル化反応については例が限られていました。私達はマイクロフローリアクター内で求核性のアミンとクロロギ酸エステルからアシルアンモニウムイオンもしくはアシルピリジニウムイオンを調製し、これをH―ホスホナートと反応させることで、アシル化の位置をスイッチできることを見出しました。ジメチルアミンから誘導したアシルアンモニウムイオンを用いた際には酸素原子上でアシル化が進行し、脱炭酸、その後の過酸化水素水を用いた酸化によりリン酸トリエステルが得られ、9―アザジュロリジンから誘導したアシルピリジニウムイオンを用いた際にはリン原子上でアシル化が進行し、ホスホノホルマートエステルが得られました。なお、酸素原子上での反応後の脱炭酸によるリン酸トリエステルの生成は本研究で初めて見出された反応です。
Chem. Commun. advance article