機械学習を駆使した反応条件検討
近年、科学のあらゆる分野において最適解を最速で求めるために機械学習を駆使する試みが進んでいます。特にベイズ最適化(機械学習)は取得データ数を抑えつつ、最適解を見逃すことなく同定しうる手法として注目されており、多くの分野において利用が進んでいます。有機合成化学分野はデータ取得のコストが高いため、ベイズ最適化の活用が期待されていますが、世界的にも未だその利用例はわずかです。また、マイクロフロー合成法は通常の合成法と比較して検討パラメーター数が増え、条件最適化に要する検討数も多くなるため、上述のベイズ最適化はフロー合成法の条件探索においてとりわけ有効と考えられます。われわれは、マイクロフロー合成法を駆使することにより、これまで抑制が困難とされていた副反応を回避しつつ、安価で入手容易、なおかつ廃棄物量の少ない原料から一気に、医薬品候補化合物として重要なスルファミドを合成することに成功しました。また、反応条件検討の過程でベイズ最適化を駆使することにより、検討数を抑えつつ、目的条件を同定することに成功しました。今回条件検討の対象としたパラメーターは全て組み合わせると10,500通りにもなりますが、ベイズ最適化の利用により、20実験以内で目的条件を見つけ出しました。さらに、各パラメーター同士の相関情報をガウス過程回帰を駆使して、上述のわずか20以内の実験データから予測することに成功しました。さらには開発した手法を用いて新規スルファミド類の高効率合成を実現しました。本成果は金沢大学、カナダ ブリティッシュコロンビア大学、東京工業大学のグループとの共同研究で得られたものです。
Chem. Methods 1, (11), 484-490 (2021).
リン酸トリエステルの合成
リン酸トリエステルは医薬品やその候補化合物、殺虫剤、難燃剤、可塑剤など多様な用途で利用されています。現在、ほとんどの有機リン化合物は安価で入手容易な三塩化リンを原料として合成されていますが、三塩化リンの反応性が高すぎるて過剰なアルコール導入が起こりやすいため、3つの異なるアルコールを連続的に順次導入してリン酸トリエステルを合成することは困難でした。しかも興味深いことに1つ目のアルコールの導入時よりも2つ目のアルコールの導入時のほうが、過剰反応が起こりやすく、その理由は明らかにされていませんでした。さらにイミダゾールを添加すると過剰反応抑止に効果があることも報告されていましたが、その理由も不明のままでした。私達はマイクロフロー合成法を駆使して、三塩化リンに対して3つの異なるアルコールを高収率で連続的に導入することに成功しました。また、金沢大学のグループとの共同研究でDFT計算により、2つ目のアルコール導入時に過剰反応が起こりやすい理由とイミダゾール添加により、これが抑止できる理由について仮説を提唱しました。本成果は金沢大学、東京工業大学のグループとの共同研究で得られたものです。
Chem. Eur. J. 28, (37), e202200932, (2022).